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日本で暮らす ということ

 介護や福祉の分野で活躍する外国人が、いまや2万人を超えるという。母国を離れ日本で働く介護士さんのお話を伺いたいと思っていたところ、縁あってマリアさんを紹介いただいた。

 ルーマニアで生まれ育ったマリアさんが初めて日本を訪れたのは23年ほど前のこと。当時は日本に長く暮らすことも、介護の仕事に就くということも全く想像してなかったという。それが、現在は3人の子どもと春日井市内で暮らしており、様々な巡り合わせがあってデイサービスてとりん村で働いている。初めから介護の仕事に就こうと思っていたわけではなかったというが、生活のために働こうと思っていたときにママ友達から「介護職員初任者研修」の資格取得に誘われた。

「私には病気の子どもがいるから介護とか看護は慣れたものだったし、資格が取れるというのは魅力があったの」と、チャレンジすることに決めた。日本語での日常会話ができるマリアさんでも、専門用語の多い介護の勉強をするには大変苦労をしたそう。ふりがな付のテキストを手に半年ほど勉強を続けた結果、ようやく資格を取得。その後は、時間的な融通が利くという理由から「訪問介護のパート」という形で介護の仕事をスタート。子どもたちと過ごす時間を大切にしながら、介護の仕事を続けて今に至る。マリアさんがてとりん村で働くようになったのはおよそ3年前。初めは訪問介護の仕事と掛け持ちしていたが、子育てに手が掛からなくなったタイミングで1つに絞った。


「わざわざ遠いところから」

それにマリアさん自身が大病を患ってリハビリしながらの仕事復帰という状況となったことも重なり「常に皆が居るという安心感があるから施設で働くほうが自分にとっても良いことだと思った」と話してくれた。

 介護の仕事をするなかで「外国人だから」という理由でやりにくいことなどがあったかと尋ねると、訪問介護の時には外国人だからという理由で予め断られることもあったという。しかし一方では、まるでお祖母ちゃんと孫のような関係で受け入れてくれる人たちも多く「あんた、遠いところからわざわざ私のおしりを洗いに来たの?ありがたいねぇ」とユーモアたっぷりで笑わせてくれるようなこともしばしば。「どこから来たの?」「ルーマニアですよ」「ルーマニアかね、ええねぇ」と、毎回おきまりのような掛け合いになることも。「介護の仕事をしていると、そんなエピソードはたくさんあります。それもまた楽しいですね。」と自然と笑顔になる。また、てとりん村ではマリアさんが少し苦手な漢字を書く書類仕事などをみんなが助けてくれるそうで「だから私も自分にできる別の部分で返すようにしたいと思っている」と外国人のハンデを感じさせないようにしてくれている環境への感謝も語ってくれた。

 最後に、利用者さんが順番待ちするほど人気だというてとりん村の特長を聞くと「フリータイムも食事の準備なんかも利用者さんと一緒になってやるようなことが多いから賑やかで雰囲気がいいと思いますね。家族みたいな。あとは畑があって楽しいです。利用者さんがこうすれば良いよと教えてくれたりもします。」コロナ禍ではこまめに体温を測ったり、消毒したりという気遣いが増えた部分もあるが、みんなで気をつけながらやってるという。「岩月さん(NPO法人てとりん代表理事)のアイデアもいつも楽しいし、畑で育てている玉ねぎも楽しみ!」なかなか故郷のルーマニアには帰れないというが、その分てとりん村のみんなを家族のように想っているのだと感じた。


介護をする側にもサポートを

 マリアさんの話を聞いていたら「てとりん」についてもっと知りたくなってしまったので、日を改めててとりん代表の岩月さんにもお話を伺いました。

 

―マリアさんが「岩月さんのアイデアはいつも楽しい」と仰ってました。アイデアの源、考える時に大切にしていることはありますか?岩月さん(以下、岩):そんな、大したことはしてませんよ。こんなふうになれば良いな、と。今の工事のきっかけも、ブルーベリーの木々のそばへ、車いすや介助歩行の方々も自分で行って、取って食べて欲しい!だから道を整備しよう!という感じ。

―外国人を雇う際の心がけみたいなものは、何かありますか?岩:マリアさんについては、介護の技術があるし安心して任せられます。仕事をする上での言葉づかい、コミュニケーションも素晴らしい。そして何より、人を大切にしよう、という心を持っている。それは彼女を通して私自身が学んだことかもしれません。


―訪問介護の仕事で利用者さんから断られるようなこともあったみたいですね。岩:利用者さんだけじゃないです。私が最初に紹介しようと思って声をかけた事業者も「受け入れ態勢が整ってない」という理由で断られました。施設や事業者側の、そういう状況もまだまだあると思います。

 

―マリアさんと出会ったきっかけは?岩:介護者(介護をしている家族など)のサポートを長年やってて、マリアさんとの縁もそれがきっかけです。せっかく日本に来てるんだから「日本で子育てして良かった~」って思ってもらえると良いな、という気持ちが強かったのかもしれません。

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―岩月さんがてとりんハウスを始めたきっかけ、うかがえますか?岩:もともと看護師として働いていましたが、親の介護に直面しました。家族として要介護者を看ることの大変さを強く感じ、家族も支援を受ける存在なんだ、と思ったのです。イギリスではケアラーズアクト(介護者支援法)があり、家族介護者を支援する体制が法的に整備されています。日本は法律も制度も支援する場も無い。介護者のための場を作りたい!と、立ち上げたのがてとりんです。最初は主婦4人で月1回、介護者のつどいをしていました。その後、常設を希望する声や周りの後押しもあって、てとりんハウスをはじめることになりました。物件を探していた時に、㈱福祉の里の矢吹会長をご紹介していただいて、自社で所有していた今の場所を内装工事も含め寄付で貸していただきました。アメリカなんかではそういう寄付があるみたいですが、驚いて…本当に感謝しています。


―こちらのカフェは、いつ頃できて、どんな方が利用されているのでしょうか?岩:平成26年からこの喫茶店の形です。ケアラー(家族介護者)の方はもちろん、地域の人にも開かれた場として皆さん気軽に利用してくださってます。コロナ前はひと月に1000人くらい…ってことは、日あたりだと50人くらいが来てくださってました。相談も年に500~600件くらいあります。家族介護者の方も来てくださいますがなかなか最初から「悩んでるんです」って言えない。それでも何となく回を重ねて訪れるうちに、ポツポツと口を開いてくれたり。あとは、認知症の方もいらっしゃいます。周りのお客さん達も初めはどう接したら良いのか分からないような状態だったのが、どんどん関わり方を分かってくるんですよね。今ではお客さんが声かけあって、みんなで見守るような感じになってます。

―ここで自然と知識がつくというか、介護への備え・心構えみたいなものができているのかもしれませんね。岩:そうですね。お互いが支え合って成長して。関わる力も付きますし、結びつきも強くなると思います。「社会の一員だと感じられるような結びつき」があるだけで孤立ではなくなりますからね。いろんな人がいるなかで、自分も誰かを助けてるし誰かに助けられてもいるというようなコミュニティにすこしずつなってきたのかなと思っています。

―最後に、デイサービスが人気とのことですが、どんなことを心掛けてますか?岩:デイサービスって、ある意味人生最後の“ハレの場”かもしれない。社会とのつながりというか、人前に出る、その大切な時間をイキイキと過ごしていただきたいなと思っています。

―貴重なお話ありがとうございました。

 

(インタビューは2021年2月7日に実施しました)

取材協力:NPO法人てとりん

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